文部科学省博士課程教育リーディングプログラム事業による支援期間の終了に伴い、平成 30年度3月末に終了となったグローバルリーダー教育院のWEBページです。アーカイブとして残してあります。 グローバルリーダー教育課程は、今後も学内で継続されます。同課程に関する情報は、新 HP に随時アップされますので、(こちら)をご確認ください。
AGL:グローバルリーダー教育院

文部科学省博士課程教育リーディングプログラム事業による支援期間の終了に伴い、平成 30年度3月末に終了となったグローバルリーダー教育院のWEBページです。アーカイブとして残してあります。 グローバルリーダー教育課程は、今後も学内で継続されます。同課程に関する情報は、新 HP に随時アップされますので、(こちら)をご確認ください。
教育システム
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2017.08.02

H29年度山田道場WHAT'S GOING ON『社会やビジネスを大きく変える第3世代のコンピューティング』- コグニティブ・コンピューティングと IBM Watson の世界-

Guest Speaker; Dr. Satoshi Tsuji, IBM Japan, Ltd., IBM Research & Development - Japan, Manager of Technical Vitality & University Relations<辻智、博士(工学)、日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発 Technical Vitality & University Relations 部長>

2017年7月3日(月)、大岡山キャンパスにて日本アイ・ビー・エム株式会社研究開発 Technical Vitality & University Relations 部長の辻智さんをお招きし、2時間半に亘って、同社のコグニティブ・コンピューティングであるIBM Watsonによる、新たなサービスについてお話しいただき、学生からの質問にお答えいただきました。今回は、AGL齋藤道場と山田道場の共同開催で、OPEN参加の学生7名を含め19名の学生が出席しました。


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【Ice Breaking】
まずは、Ice Breakingとして我々への質問を通し、グローバルスタンダードについてお話しいただきました。端的には、日本の謙遜の文化はグローバルでは理解されないとのことでした。具体的には、「たとえば、アンケートでyesでもnoでもなく、"どちらでもない・普通"といつも答える習慣のある人は、何を考えているのかわからない気持ち悪い人」と認識されて敬遠されるとのことです。テクノロジーによって物理的な障壁が取り払われていく中、我々日本人にも活躍の場は拡大していきますが、グローバルスタンダード的な態度のはっきりした発信力を培っていかなければなりません。
【IBM】
続いて、IBMのコンセプトについてお話しいただきました。IBM社はWatsonを開発していますが、汎用人工知能は作らないとのことで、「IBMのマシンは、使用する人間が持つ能力を拡張するツールに過ぎない」という基本認識の上に開発しているとのことでした。つまり、「今の気分で絵を描いて」に応答するようなAIは作っておらず、あくまでもロジカルシンキングを行うAIを開発しているということになります。
【Watson】
そして、現在大変注目されているWatsonについてお話しいただきました。Watsonはもともと、「人の質問に回答する」を目的に開発されたシステムです。①これまでにない規模で学習、②目的をもって推論、③人との自然なインタラクション(非定型のデータをどれくらい扱えるか)が、ポイントとなります。システム的には与えられた質問文の内容を分析し、ストックされた大量の文書中から質問の回答に適切な回答を探索しています。一般的な検索エンジンと違う面白いポイントは、たとえば"オリンピックの金メダリストでノーベル賞受賞者"という検索クエリを投げた際、一般的な検索エンジンは両方が記載されているページ(あくまでも金メダリスト・ノーベル賞受賞者というふたつのクエリを満たすものであり、金メダリストかつノーベル賞受賞者ではない)をアウトプットするが、Watsonはそういう人は今のところいないと回答することができる点です。また、情報源の多い少ないだけでなく、確度の高いものを出力するようなdisciplineを搭載しているそうです。たとえば、天動説の数が圧倒的でも、地動説確度が高ければ地動説を出力します。存在しない情報は当然生み出せませんが、病理でも人間が気付かないような陥りやすい診断ポイントに陥らずにすべての情報から可能性を判断することができるそうです。
【Jeopardy grand challenge】
次に、Watsonを世に知らしめることになった米国の人気TV番組「Jeopardy」にWatsonが挑戦した際のお話を伺いました。このクイズ番組はふたつの事柄の連想における穴抜けポイントを回答するという形式のクイズ番組です。IBMは、世の中にインパクトを与えることを企画し、2006年にまだ何の展望もなかったのにも関わらず、「やる。できる。」と言いきったそうです。実は、2010年の番組2か月前の段階でもかなりつらい状況でしたが、休むことなく開発を続けた開発陣の努力によって最終的には人間に対して勝利を収めるというドラマチックな結末を迎えることによって努力が報われる形となりました。現在のWatsonの姿があるのは、当時のプロジェクトメンバーの情熱の賜物といってもよいのではないでしょうか。
【WatsonグループのOffering】
Watsonの副次的な効果についてもお話しいただきました。Watsonの応用範囲は多種のサービスにわたり、それを支えるために世界中のほとんどの主要な電子ジャーナルをリアルタイムで取り込んでいるそうです。また、ソーシャルもセンサーとして活用できるため、たとえば「新種のウイルスが出たらしい」というツイートなども収集していることによって、セキュリティー対策をはじめとした応用分野にも使える技術であるとのことでした。
【活用例】
最後に、実際にWatsonが活用されるとどうなるのかを分かりやすくする事例について、エネルギー会社、医療現場のケースにおいて紹介動画とともにご説明いただきました。
 エネルギー会社のケースでは端的にまとめますと、何人もの専門家で対応していた会議を、様々なコグニティブ・システムを取りまとめるセリアと呼ばれるWatsonテクノロジーを搭載した代表システムひとつあるだけで、事業を熟知している人間の意思決定者一名とセリアだけの掛け合いで意思決定を進めることができるようになり、会議の先に起こるであろうタスクに時間や仕事量をさけるようになるというビジョンが語られました。まるでセリアは非常に有能な秘書のようであり、一見既存の仕事を奪っているようですが、本社機能として意思決定のスピード向上・現場機能へのリソース再配分と、実は新しい仕事を生み出すのだという未来について語られました。
 医療現場のケースでは、専門医が何かの病を治すことを目的に治療法の文献調査を行う場面が取り上げられました。実際に専門医の限られた業務時間内で、何千もの文献調査を行うことは、能力の限界を超えてしまいますが、Watsonは人間がこれをこなすのに3週間かかるところを3分でこなしてしまいます。Watsonはこういった大量のデータを捌くことは得意であるという特性があり、専門医がこのシステムを用いることによって、より治療行為に専念できるのだという未来について語られました。

【bluemix tools】
 また、以下のURLは道場内で紹介していただいたIBM Bluemix Watson API のデモの一例になります。他にも便利なツールが公開されていますので、一度ご覧になってください。
https://totem.mybluemix.net/
https://text-to-speech-demo.mybluemix.net/
https://personality-insights-livedemo.mybluemix.net/


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本道場では、IBMのWatsonについて深く理解する場を提供していただきました。また、参加者はIBMのWatsonの世界を通して未来へ向けた新しい視点を獲得できたのではないでしょうか。新たなテクノロジーから新しいイノベーションが生まれていきます。我々の未来へ向けたアクションとして、イノベーションのためのイノベーションを研究開発するのか、イノベーションを用いたイノベーションを創出するのか。可能性は無限大ですね。
 最後に、大変お忙しい中、このような貴重な機会を提供していただきました日本アイ・ビー・エム株式会社の辻さんに、心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

(文責:佃真吾 知能情報コース M2, AGL6期生)